そんなシケた顔を引きずりながら、単純極まりない労働を繰り返すのだった。
 「ああ、実にクダラナイ、実にクダラナイさ」とサリンジャーならチキショウメと書いてしまいそうな勢いで、真砂は唾を飛ばしながらぼやく。
 「そんなことばかり云っていても、くだるものなんてありやしないさ、少なくともここにいる間はね」そう飄々と云ってのけるは彼の唯一とおぼしき友人であるスクワイヤ・ヘンドリック・ジュニア。まるで鋭い槍のような彼の視線は、その深く澄んだブルーの瞳から発せられていた。プラチナに近い淡いブロンドは軽く風に舞い、どことなく春の雰囲気だ。
 スクワイヤは、ひらりと身を翻しながら続ける。
 「だいたい、自分から何も動こうともしないくせに、文句ばかりは一丁前に云うというのがおかしいんだ。何がくだらなくて、何が面白いんだい?いや、君がそれを僕に告白しようがしまいがそんなことはどうだっていいんだがね。ただ少し気になったのだよ。この世界なんて単純なものさ。君が願うのなら天国にも地獄にもなる。いや、正確に云うと、”どちらにもなりえる可能性がある”だな。それだけ、”願い”は脅威なんだ、ある意味ではね」少しばかり自分の言葉に酔ってきたスクワイヤはまだまだ続ける。
 今までに、これほど彼の舌が回ったことがあっただろうか。このまま彼の舌は調子に乗り過ぎた遊園地のコーヒーカップ──中学生の男子なんかが初めてグループで連れだって行った場合に程々にすればいいものを、上がりきったテンションでぐるぐると回してしまい、結局、「男子ってホント、ガキよね」で片付けられてしまうアレだ──のように僕の目を回すつもりなのだろうかと真砂は思った。しかし、スクワイヤが回転し始めたときに感じていた仄かな不快感が、その身をひっそりと隠してしまったことには、まったく気がつかなかった。
 「まあ、男の子はいつまで経っても男の子ってことだな」
 「なんだい?つまるところそれはそうなんだけどさ。急にどうした?ボクの話とはほとんど関係ないぜ?」
 「いや、すまない。なんでもないんだ」
 ──ふと、そういう思考に耽っていただけさ──そう云おうと思ったが、それは黙っておいた。スクワイヤの回転が恐ろしく早くなって、「何故、ボクが話しているというのに、ぼうっと他のことを考えているんだ」という怒り方をする予感がしたからだ。
 「まあ、いい。ああ、本当にどうでもよくなってきた。ボクはもう消えるとするよ。また会う日まで!シー・ユー」と相変わらずの思春期気違いコーヒーカップの早さで云うとその小さな指で宙を縦長の長方形に斬り、その中へと入っていった。