スタンド・バイ・ミー

 「実は、この映画って観たことがなかったりするんだ」
 彼はそういって、先ほどまで口ずさんでいた、「スタンド・バイ・ミー」を中断し、棚にある同名のビデオ・テープを掴んだ。
 「あの有名な場面ってあるじゃない、ほら、線路の上でさ」と続ける。「あんなふうにして細切れで、『不朽の名作〜』みたいな番組で見せられちゃうとすごく滅入るんだよね。観たことないから、詳しいことはわからないけれど、原作のスティーブン・キングや監督が見せたいシーンは別のところではないか、と思うんだよ」パッケージの両面を眺めつつも彼はなお続けた。「いや、だからといって作り手の見せたいシーンをテレビでジャンジャン流されても、それはそれで困るけれど。だって、そんなことされたら映画館へ足を運んだり、こうしてレンタルすることだってしなくなってしまう。そうだろう?よっぽどそれの主題や何やらが魅力的ならまだしも、大してそうでもないものなんかだったら目も当てられやしないさ。回転率の悪い商品というレッテルを貼られて、映画館では2週間で上映が終了し、レンタル・ショップでは在庫本数を絞られるのが見て取れるようだ」
 そこまでいったあとで、「スタンド・バイ・ミー」を棚に戻し、「TAMALA2010」を手に取った。


  必需品:タバコ
  口癖:ファッキン


 彼は軽く口の端を上げた。
 どうやら今日はこれに決まったようだ。